ヘッジファンド、その戦略の意味

4/26/2009
(注) この記事は 2006年10月3日の記事の再録です。

久しぶりに、ちょっといろいろ思うところがあって
タイトルのようなことを書いてみようかな、と思いました。

まぁ、一つは、先週来ニュースに出てきた、久しぶりのヘッジファンドの
破綻話、もう一つは、そもそもヘッジファンドの戦略って、ということです。


私の所属する会社では外国籍の投資信託の組成、運営もお手伝いしていまして、
その商品の一つに、ファンド・オブ・ヘッジファンドのパフォーマンスに連動する
投資信託というものがあり、毎月、個人の投資家の方への説明となるレポートを
作成しているのですが、いい月はどうってこともないのですが、思ったよりも
のびなかったり、負けてしまった月ですと、売っていただいている証券会社の担当の人
から、

「ヘッジファンドって市場に対してリスクを取ってないからいつでも
儲かるもの、ですよね?なんで?」

と、こう聞かれるのです。
まぁ、その連動するファンド・オブ・ヘッジファンドの運用は私の所属する
会社でやっていませんので、彼らが下手を打ったからで、今度はうちの
商品でやってみませんか?(笑)と、こうのどから出掛かるものの、ぐっと
飲み込んで

「いえいえ、ヘッジファンドといっても、戦略によっては、市場の方向性に
前提をおいて投資するディレクショナルというものもありますし、ヘッジしている
方向と市場が反対に歪んだ状態に陥ることだってあるわけですから。」

と、まぁ、全うなお話をさせてもらうのです。
そう、証券会社の人だって誤解がある、このあたりから話を始めたいと思います。

ヘッジファンドのヘッジ、と言う言葉、実は正しい一方、誤解を生みがちなものなのです。

例えば、一番わかりやすいヘッジファンドの戦略で、某高額納税スーパーサラリーマン氏の所属する
運用会社で、彼のチームが運用している戦略でもある、株を買うと同時に売ることで収益を
確保しようとする「株式ロングショート戦略」ですが、これは、例えば自動車メーカーという
セクターの中で、
「トヨタがのびる余地があって(割安)、日産がシェアを落とす(割高)」、
というシナリオがもし当然のように起こりえるのならば、トヨタを買って日産を売ることで、
市場全体やセクターへのリスクを取らずに放っておいても収斂する結果相応の収益を
あげることになる訳ですが、さて、例えば、割安とか割高と算出するために財務情報や
過去の株価の動向を使ってあるモデルで算出した(クオンツ・モデル・システム・トレード)とすれば、
そのモデルの算出結果の妥当性が運用結果を決めることになりますし、
上記のようなシナリオをアナリストが自らのリサーチを元に描いた(リサーチ・ベース)とすれば、
そのシナリオの妥当性が運用結果を決めることになります。
言い換えると、前提条件に基づく売り買いである以上、その前提条件が正しくなければ
予想と反する方向に市場が動き、買ったものの値段は下がり、売ったものの値段があがる
ということになるのです。

その一番いい例が、1990年台後半のLTCM の崩壊です。これは、一説にエマージング・ボンド
(後進国の発行する債券)と米国債との差(で、これはその国の返済能力/信用力を意味します)が
縮まると見込んだポジションを取っていたのですが、ロシアによる債務不履行によって
(その後、「質への逃避」と呼ばれるようになる)投資家がエマージング・ボンドを売って
米国債を買ったことでその差が広がり、言い換えれば LTCM の予想と反する方向に市場が
動いたので、彼らは損失がふくれあがってしまった、と言われています。
また、昨年の後半の日本での株式市場の急騰も、ヘッジファンドは平常時と同じく買いと
同時に売りを入れるものの、買わないとこの急騰に乗り遅れる、とある意味パニック買いに
入ってしまった個人投資家によって買ったポジションはいいものの売ったポジションでことごとく
負けてしまい、ヘッジファンドの収益が伸び悩んだ、ということもありました。

要は、突然起こるパニック時や、通常と異なる力で市場が引っ張られるときに
ヘッジファンドというのは弱いことが多い、ということなのです。


ところで、ふと LTCM の名前が出たので、もうひとつの話に滑り込もうかと思います。
そう、もう一つの話のキーは、滑り込む、です(笑)
LTCM は、その創設者の得意とする裁定取引戦略ファンドでしたが、市場の歪みというのは
投資機会としてはさして大きいものではないため、どんなにシステム化してわずかに
ミスプライスを見つけて瞬時に取引できるようにしたとしても、やはり投資元本を
有効に使える限界が出てきます。そこで、LTCM の取った行動は最初は債券の裁定取引でしたが
株式と転換社債との間の裁定取引、二国間の金利差の裁定取引にモーゲージ債と国債との
裁定取引、と、まぁ、裁定取引と名のつくものであれば何にでも、ということで、ある意味当初
投資家に示していた戦略に対してグレーなところにまで手をのばしていた、
いわゆる戦略の横滑り - style difting -を起こしていたのでは、ということです。

これは、投資戦略に対して適切な投資額というのを越えたときに起こりえる
# 良識あるマネジャーであれば、ファンドの新規投資の受け入れを停止する(クローズする)
# ことで、ファンドの最適化を図るものです。
わけではなく、例えば、戦略の目していたイベントが予定外に少なすぎて投資機会が
無い場合に、放っておく訳に行かないということでちょっと類似の戦略に首を突っ込んでしまう
ようなケースも見受けられます。

さて、最近大騒ぎになったヘッジファンドの原因はというと、
天然ガスの価格の下落と言われています。確かに商品市場に手を出すファンドも
少なくはないですが、なぜそんなことになったのでしょう。 端的に述べるならば
一つは、原油や天然ガスのような商品指数への配分を多くしすぎた可能性(ある種の style drift)
もう一つは、レバレッジがかかりすぎていたのでは、という懸念があげられています。

昔から、個人でも小麦や大豆で失敗すると、家の前に山のような大豆を置かれる
なんて言われますが、個人投資家としては、レバレッジのコントロールを大事に
したいところですし、投資信託を含めて、人に預けるならば、その人がどれだけ
方針に従って運用するかを見届けないと行けない、と言うことになるのかもしれませんね。

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