消費者ローンの証券化

4/25/2009
(注)この記事は 2005年11月5日の記事の再録です。

どうもこのところ悪い癖で、書かなければいけない連載物を書かずに
浮気して新しいことばかりやってしまってました。

もう信託銀行から足を洗って5ヶ月。時代は動くのですから、
覚えて書いている事なんて下手すれば遠い昔の遺物になりかねないの
ですから、とっとと書いてしまいます。はい。

ということで、消費者ローンの証券化ですね。
とはいえ、証券化の話に入る前に、この消費者ローンの特性にまず着目しましょう。

消費者ローン、というと、まず念頭に置かれるのは、いわゆる、
「武富士」や「アコム」、「プロミス」といった、街角のローン会社
(うーん、我ながら言葉を選んでるなぁ:-)でしょうか。

確かに、こういった会社さんのローンは、消費者向けの無担保小口ローンの代表です。
会社さんも、上記の最大手6社から、中小零細、果ては闇金と呼ばれるところまでもが
このカテゴリーにはいるのですが、その一方で、「@ローン」とか、「UFJモビット」という
銀行系のローン会社、果ては、クレジットカードのキャッシングも、よくよく見ると、実はこの
消費者向けの小口無担保ローンの範疇に入るのです。
(闇金を含めて、)前者は専業のローン会社であり、後者はクレジットカードの機能としての
ローンで、そして、真ん中は銀行子会社のローン会社ですが、真ん中を除き、また闇金を
除くと、おおむね 25%から29.2% という金利で貸しているのですが、こんな金利で
借りる、ということは、専業の会社さんから借りてもクレジットカード会社から借りても
借りたお金に色は無い以上違いはないのですが、どうもイメージって怖いですね、どこか
無意識のうちに何かが違うように思えてくるのです。

とはいえ、貸す側から見た場合、実は結構大きな違いがあるのです。。。

クレジットカードを作るとき、年齢、性別、住所、電話番号、勤め先とその規模、年収などなど、
書かされると思います。なぜでしょう。大抵の方ならわかると思いますが、無担保、要はお金を
貸して返してもらえなくなったときに返済の代わりになるものをもらわずに貸す、無担保ローンを
するばあい、実は貸す側が取っている担保はその人の信用力、言い換えれば返済能力なのです。
どんな会社に勤めていて、年収これくらいだから、そのうちこれだけ貸せば元本と利息を
ちゃんと返してくれるか、というのを判断する必要があるのです。例えば、働いていない
主婦が旦那さんの収入に頼らずにお金を返す事はまず無理、と考えるのと同じです。
要は、借りる人の顔を見ているのですが、まぁ表立ってそうも言えませんし、
クレジットカードの場合は、お金を貸すという事の他に、カードを使って商品購入した
場合の立て替えた支払い代金の回収のための信用も見ないといけないのです。
まぁ、クレジットカードの元々が、つけでご飯を食べられるように、信用(クレジット)を
形にしたもの、なのですから、その起源を考えれば納得がいくはずです。
ですので、クレジットカードには、ある程度社会的な地位のある人に発行する、
と言われても何となくそんな気がしてきますよね。

じゃあ、今の私のように(苦笑)、名も知られていない、明日の支払いも危ないような零細企業に
お勤めの人の場合、明日の給料がもらえるかどうか怪しい訳ですので、クレジットカードを
渡しても駄目なんじゃないか?と判断されても仕方が無いところです。
# なので、サラリーマンは会社を辞めるときにはクレジットカードを沢山作ってから
# 辞めなさい、と言われるのです。ま、自分の信用というより、それって会社の名前で
# なんとかしてもらっているようなものですよね(笑)

で、そんな人はじゃあお金が借りられないか、というと、専業ローン会社さんなら
今までちゃんと稼いでいたし、会社もあるようだし、などなど、別の切り口から
じっくり調べて(だいたい一人頭50分くらいでしょうか)、貸すかどうかを決めています。

そう、無人君に入っている間に、あなたの実家や職場にあなたのことを調べる
怪しい電話がかかっているんですよ。そのかわり、その「あなたがそこに住んでいる」とか
「あなたがそこに働いている」という事実が、あなたの返済能力の有無の判断基準なのです。
また、専業ローン会社の間で共同管理している、事故記録の履歴にも調査がはいります。
あ、ちなみに、クレジットカードを作れるような人が専業ローンさんにいっても
お金は借りられません。なぜか?ちゃんとした稼ぎがあるような人がクレジットカードで
賄いきれない状況になって来ている訳ですから、彼(もしくは彼女)の支出嗜好が
容易に推察されて、リスクの高い人だと言う判断がされるのも明らかだからです。

もし、あなたに今までローンで延滞した事がある、という事実がそこから出てこなければ
はじめて専業ローン会社から借りるならばだいたい3-5万円くらいが借りられるでしょうね。
そして、半年間、ちゃんと期日までに約束の金額を返済し続けると、もう数万円借りて、
と、今度はあなたの返済履歴が信用の印になって行くのです。


では、諸般の事情、うっかりとか、面倒がってでも、病気でも、なんでもいいのですが、
返すのを遅らすと、督促の電話がかかるでしょうし、上述の事故記録の履歴にも残ってしまうのです。
ですので、Aで借りて返しそびれてしまうと、Bならはじめてだから大丈夫、なんてことは
ないんです。Bでも Aでのあなたの悪行は知られているのです。

で、そうやってちゃんと返せる人は返して、だいたい50万円から 100万円まで借りさせてもらえる
のですが、悪事の数々を行うと、大手から順々に断られて、まだリスクを取る中小の専業
ローン会社さんが貸してくれるかもしれませんが、そこも断るとあと残るのは闇金です。
そこは、「出資法」という法律の外の、不法行為の世界ですが、貸す方も法律のリスクと
そんなどこも見向きもしなくなった人に貸す(不払いの)リスクを負いながら貸す訳ですし、
借りる方も、どういう事情で借りるかわかりませんが、貸してもらえなくなって生きて行けなくなる
恐怖から逃れるために、それぞれ不法行為を行わないといけない、というある種異様な世界に
突入するのです。まぁ、ここではそんな不法行為によって発生した金銭債権を扱う事は
しませんが、そんな怖い世界がある、というのを覚えておいてください。


さて、なぜここまで事細かに背景を説明したか、というと、
1. 同じ無担保ローン債権といいながら、クレジットカード会社のローン債権と専業ローン会社のそれとで、
さらに言えば、そもそも各会社ごとで性質が異なる、ということ。
2. 国民一人あたり1000万円の預金があると言われる中で、実は一人当たり 200万円のローンもあるという
統計がある現在、消費者ローンを借りる人の平均像は年収3-400万円平均であるのに関わらず
一社あたり 30万円を 5-6社で合計 150-200万円借りてい(て、これに住宅ローンがあっ)て、
返しきれるかどうかという世界だというなかで、この何社から借りているか(LE件数: Lender Exchange、
つまりローン会社間の情報交換で得られる、何社から借りているかという情報)ということを比例的に
見がちであるものの、実は現実にそぐわない、ということ。
その人の返済能力の見方にそぐわない、ということ。
# 一つはLE件数の多い事、というのが同業が貸せるからという信用面のポジティブな見方が出来る事であり、
# 他方、自己破産が過去数年で問題になったのですが、その中でLE件数が0-1 、言い換えると、専業ローンを
# 今まで借りた事のなかった人、がいきなり破産するという現象が見られたのですが、それは、LEの外の
# クレジットカードで破産寸前まで借りていた人が専業ローンで借りた瞬間に破産する、というシナリオを
# ある意味意図的にクレサラ系の弁護士と結託してやっていた向きが強かったと言われています。
という、いわば消費者中での所得層間の特徴が如実に現れている、ということを
まずご理解いただきたいのです。
これをふまえて、これら、クレジットカード会社や専業ローン会社の貸付債権である
無担保消費者向け小口ローンのプールを信託に入れて、その見返りとして受け取る
信託受益権を、その中でもうわばみと言える優先受益権だけ取り出して投資家の
買いやすいような形にする、というのがこのスキームなのですが、今でこそ沈静化されたとはいえ
年間 20万人が自己破産している、と言われていた昨今、平均的な貸し倒れ率が5-10%になっている
ことをふまえると、優先受益権が無事に元本償還出来るようにいろいろな手だてを加えないと
いけない、と言われても仕方の無い話ではあるのでしょう。

例えば、貸し倒れた債権を専業ローン会社に引き渡す一方ペナルティとして資金を積みましたり
新しい債権を継続的にいれてポートフォリオを常に正常化するメカニズム(デフォルトトラップ)や、
いざというときの元本の償還のための資金準備をするメカニズム、などなど。
これらのメカニズムやテクニックのおかげで消費者ローンの証券化は「精密機械」と
までいわれたことがありました。

その他方で、証券化するポートフォリオの貸付債権の回収実績というのが、
その会社の貸付基準や回収基準/手法に大きく依存するものである以上、
証券化の本来の目的である
「オリジネーターの信用リスクを排除した資金調達」
から、かなりかけ離れたものになり、また、上記の2について個人的に言わせてもらえれば
これは私が手を動かしていた頃からずっと主張していたことにもかかわらず
格付けの画一的(で自己満足的)な評価で実勢と乖離した、そして資金調達する
意味の無く、といって投資家の利益も保全しないような結果に到達することが
しばしあったと記憶しています。

そして、世の中ではあまり知られていないことですが、オリジネーターの破綻、という
イベントが過去に数回あり、この商品があまり活発にならなくなったのですが、
その背景として、ある意味投資家のためにと準備されていたバックアップサービサーという
メカニズムが有効に準備されていたためにスキームの破綻にならなかったという側面が
ある一方、オリジネータの破綻によってバックアップサービサーがオリジネータの代わりに
債権の回収を行う、という格付けが描いたシナリオ通りにならなかったため、ある意味
法的に不安定な状況に陥る事には違いない事から機関投資家が投資を控えた、
ということがあります。確かに、過去数回あった事例のどれを取っても、不可思議な
解決方法で丸く収まっている、とされていますが、その不安定な状況というのは
誰のせいでもない一方、これが本当に証券化なのか、それとも形を変えた譲渡担保を取る形での
会社に対する貸付なのではないのか、という疑問の一石を投じたのだと思います。

なので、正直に言うならば、この商品を受託するのも結構ガッツのいることだったと
いまだに思っています。本当に、失礼な話ではありますが、会社さんの名前によっては
上席と大げんかした事もありました(笑)


さて、受託するリスク、と、譲渡担保で、一つ書かねばならない事を思い出しました。
銀行と生保以外がお金を貸すことを生業とするときには、「貸金業法」という法律に
定められた登録を行い、またこの法律に基づいた貸付や回収を行わなければならない、
とされています。その中で、

債権を譲渡したときには一定の要件を記載した通知を借り主に遅滞無く送付しなければならない

という条文(第24条2項に基づく第17条)があります。
さて、信託に債権ポートフォリオを移転する、というのは債権の譲渡にあたるのでは、
という議論がありました。これは未だに判例が出ていないため、法律家の間の論争と
なっている向きがある一方、法律を運用する金融庁の非公式見解によれば、貸金業者が
資金調達のために行っている譲渡担保の延長である限りは、まぁおとがめは無いでしょう
ということらしく、それに則った形で行っているところが、現在この貸金業法に縛られる
オリジネータの債権の証券化を行える信託、といえますが、実はそのような信託は
数少ないです。

というのも、この罰則規定が会社だけでなくその従業員にも科せられて、しかも刑罰なので
重い、というのが一つの理由です。確かに、仕事したらお縄に付いた、では困りますよね。

ま、未だにこれに対しては答えが出ていない一方、これを否という判断をした瞬間に
資金調達の途絶える企業が多い実情をふまえると出ないだろう、とリラックスしている
ところは多いのでしょう。よくわかりませんが。。。

いずれにせよ、この証券化で息を吹き返した会社さんの数は多く、今見返しても
必要な商品だったのだろうなぁ、それに深く関与していたんだなぁ、と改めて感慨深げです。。。

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