世の中、変な論調になってませんか?

4/25/2009
(注) この記事は 2006年3月26日の記事の再録です。

ついこの間、日銀による量的緩和金融政策が解除になり、
次第に定期預金の金利が引き上がったりしている向きがある一方、
すごーく気になったこととして、超低金利に誘導したことのデメリットと
超低金利政策をしなかった場合のメリットについて理にかなわないことを
とやかく言うことの多いこと。。。

ということで、ちょっと反逆児的にこの辺りに意見してみたいと思います。
ちなみに、これは某友人とのやり取りからもってきているのですが、
その友人には申し訳ない。という勝手引用です。

クレーム1.
日銀の白川理事がバブル崩壊後の超低金利で家計が損をした金利収入が
304兆円になるという試 算を発表したように、家計に大きなしわ寄せが行った
ことは事実。


そりゃあ、まぁ、そうでしょう。マクロ経済の中で資金の供給者は誰かと言えば
家計なのですから、常に供給する際の金利にその収益がぶれるのは当然。
言ってしまえば、預金に金利リスクがある、ということを忘れての議論とみることが
出来るのです。
日本の個人向けの普通預金は「要求したら払い戻しがすぐなされる」現金的な流動性と
「利息が付利される」という貯蓄的な要素を兼ね備えているがために、
普通預金に寝かせた金利が低い、という議論がまず先行する訳なのですが、
企業のための「支払いのための」口座である当座預金であれば利息はゼロで
そのかわり要求があれば支払う、ということを考えれば、今の送金や引き出しなどの
高度な決済機能のついた普通預金であればその流動性があるから
当座預金並みに金利ゼロ、とされても実はユーザーとしての預金者にとっては
十分割があう話なのかもしれません。

ちなみに、これは金利が仮に1.5% 下がって0% に張り付いた結果とした場合と
考えた場合ですが、実はこれ以上の下方修正リスクを負ってない訳ですけれども、
例えば、これが元々 5% だったところが2% に下がったとして、こんな計算を
したでしょうか?少なくとも過去においてこのような金利の下落局面は存在して
いましたが、2% もらっていた家計は 5% 時代を振り返っていくら損した、とは
言わなかったでしょう。でも、上記の例から見て、損失額は金利差が2倍なのですから
損失も 2倍なのは明白ですね。。。さらにあと 2% 減らされるリスクもあり。。。
要は、もらえている限りは文句は言わず、もらえてないから文句を言っているにすぎない
んですよね。失った額ではなくて。そこって論理ではなく、あるかないかの感情論が
先行していると言わざるを得ないでしょう。

しかし。。。当の日銀の総裁がこんな数字のトリックで金利政策の転換を
押し進めるために使うとは。。。


クレーム 2.
これまで公共投資や公的資金の注入など銀行救済に使ったお金は 200兆円と
いわれてるので、それを上回る利益を一般の人たちは失ってしまったとい うことだ。
国民一人辺りが1兆円で1万円だから、一人当たり 300万円損した計算になる。300万円だよ。



うーん。その300万円、該当する期間にちゃんと税金おさめた?は、おいておいて、
仮におさめたとしても、税金で社会に還付された訳じゃなくって
金利という価格の取り決めの流れでよけいに0.X% って書いているところを
1.X% って書いてしまえばよかったのに。。。と言っているのと同じなので
そもそも預金には金利リスクがあるということを認識していないとだめなんだと思います。
しかし、この手の後付けの理論ってのは本当にたちが悪い。
ないものをあたかもあるべきものが消えたがごとく見せるから。


ちなみに、この 300兆円は時間というファクターをのぞけば下方修正リスクのない
数値だった訳ですが、公共投資などは小さい政府を目指すといいながら、
さらに積み増す可能性が排除できなかったことをふまえれば、それくらいで
税金という形以外での拠出が損切れてよかったんじゃないの?という気がするのは
筆者だけでしょうか。

まぁ、上記はある意味数字遊びとして、この市場金利と景気に関する連動性というのを
無視した場合の経済の暴走のケースを考えていない、ということにそもそも問題が
あるように思えるのはこの議論の論点。

例えば、インフレ(物価上昇)が進む中、市中の金利が安かった場合何が起きるか。
資金調達コストが上がるため、さらに信用供与が進み、お金がお金を呼ぶことになり、
経済はさらに加熱してインフレはさらに進行して、という循環が出来てしまうのは
ちょっと考えればわかること。このインフレが進行すればどうなるかは、ほかの国で
起きているハイパーインフレのようなことから容易に想像できますね。

だから、インフレのときには市中金利の、中央銀行/ 政府の関与できる部分、
すなわち短期金利を調整することで、この場合には金利を上昇させることで
資金調達に対するハードルをあげることで過剰投資を押さえさせて資金の
流量を押さえ込むことで、物価の安定を狙うのです。

では、デフレに走っているときに金利が高かったらどうなるでしょう。
物価下落局面で高金利による市中の資金の減少は更なる通貨価値の上昇、
すなわち物価の下落を誘う訳です。デフレにおいて、現金をもっている
人はその価値が相対的に上がるのでお得なのですが、ローンを抱えていると
負債の価値が相対的に上昇する、言い換えればローンの返済が大変に
なるので、過去不良債権の処理が大変だった一因としてデフレがあげられることも
あるのです。
それはさておき、デフレということは景気の後退期でもあり、ともなれば
景気の刺激をしなければならない訳で、ということは、市中金利を下げて
投資意欲をあげる必要があった、というのが教科書的な金融政策だったわけです。

でも、日本の場合、下げるだけ下げてしまった。後はマイナス金利。
さすがにヤバかろう、ということで、取ったのが量的に増やすことで貨幣価値を
無理矢理下げる、という手法。例えば、偽札がたくさん出回って、人々の手元に
お金がたくさんあるような状況だと貨幣価値が下がって相対的に物価が上昇する、
というあれです。ネットワークゲームでたまに、モンスターとお金が無限に生まれてくる
ことから、ゲームの世界でインフレが起きた、なんて冗談みたいな本当の話もあるくらいです。
ということで、市中に出回るお金の量を増やすことで、金利を下げることと同じ
効果をある意味求めていた、というのがこの政策の目的だったというのがわかります。

ということで、この政策を取らなかったら、マイナス金利を使って一人頭 300万円では
済まないロスとなったか、もしくは更なるデフレに国中が不良債権だらけになって破綻するか、
のどちらかだった訳ですが、それでもよかったのでしょうか。。。

クレーム3.

三菱東京UFJ銀行が、2005年4〜12月期連結決算において、税引き後利益は
1兆円を超えたが、同行の預かり預金総額は120兆円。
仮に、全ての個人向け預金に年利1%の金利を支払った場合、支払う利息の総額
は0.6兆円。空前の利益額となった1兆円の60%に相当する金額があっという間に、
吹き飛ぶ計算となる。預金の総額である120兆円に同様の利息を支払った場合には、
利益は消失し、決算は、赤字となる。
こうしてみると、今期、三菱東京UFJ銀行が稼ぎ出した利益
は、本来預金者が得られる利息が、銀行側に移ったものだといえる。
(参照:トークに使える 日経ネタ (日銀、量的緩和を解除 所得
280兆円が家計から企業へ))


ええと。。。もし、こんなことを本気で主張してまかり通る世の中ならば、
私企業は収益を得てはいけないことになり、私企業に投資することも意味を
なさず、資本主義は崩壊する、と思うのですが。。。

という大上段な話は後に回す(。。。するんだ>自分)として、
先ほどは景気と金利政策の関係を説明するいい例でしたが、今度は、
金利と信用力との関係を説明するいい例だと思います。

よく、新聞などで10年の国債の金利が、とか話が出ますが、なぜ
話の中心が国債なのでしょうか。それは、日本円の世界において、
必ず帰ってくる、リスクの全くない資金運用手段として見ているからです。

で、続いて、翌日受け渡しの無担保コール市場の金利から始まって、その他の銀行で
提示している金利は、というと、実は本来的には国と私企業との信用力の
差の分だけ金利が上乗せされている、というところです。

例えば、翌日受け渡しの無担保コール市場といったら、お金を貸すのに
担保を取らず、翌日まで相手が倒産せずにいる、というリスクを貸す側が負う訳ですから
信用力のある(とされる)銀行などの間だけの市場となる訳で、その中であれば
信用するから、ということで、国とのやり取りにちょっとだけのプレミアムを乗せて
借りる、ということになる、というのが教科書的な説明になります。
いわんや、普通預金や定期預金は、といえば、預金者が貸し手であり
銀行が借り手という立場ですから、借り手である銀行の返済能力にあわせて、
それぞれの銀行が利息を違えて提示して、新興の銀行や借りたいところ、返済能力の
ちょっと劣る銀行はプレミアムを乗せることで預金を集めるでしょうし、
預金を集めたくない銀行や絶対に倒れないところならば、プレミアムを乗せないで
と言う形で本来は横並びの利息の提示というのは、特に金利の自由化のプロセスの
終わった今ではあり得ない話のはず、だったのです。

が、一部のネット銀行を除いてほとんどの銀行において一律横並びであるという事実も。
ひとつは、大手行のように預金での調達の方がコストだから、ということで
預金なんていらない、という意思表示での下げているケース。
中小零細企業に対して、同じような流動性の高い「当座預金」を提供しているのに
システム管理がえらく手間で、しかも、預金保険機構にコストは払わなきゃいけないのに、
元を取れるほどの運用の狙える資金でもないし、でも、当座のように利息 0% と割り切れない
法制度の不備から、仕方のない金利を提示せざるを得ない、ということがひとつ。
もう一つは、本当にそれだけの低コストの預金が必要な銀行があってそのがその恩恵を
預かろう、というケース。これは、表向きの護送船団政策が未だに継続されている証拠
でもあるのですが、金融を監督する金融監督庁などにしてみれば、
「セーフティネットなしで銀行が破綻したら。。。」
というある種の(モラル)ハザードに対するいいわけだけを考えていることでもあるのです。。。

さて、後者を考えた場合、信用力の低い会社が払わなければならないコストを
信用力の高い会社のコストに無理無理あわせて済ませているのだから、
確かに信用力の低い会社ですら収益のあがる仕掛けになっている訳です。
いわんや、信用力のある会社であれば本来普通にやっていけるレベルに
行政指導で「下げている」訳ですから赤字がでるはずもない。
となれば、確かに金融庁/財務省の陰謀説と言われてもおかしくはない、のです。
が、顧客規模や、人口密集度の違いなどなどはあれど、三菱東京と同じ割合くらい
儲かってもいいはずの会社が、今回もそこまで儲かっていないのでしょう。
それは、会社としての収益構造そのものに問題があり、
そして、今回は、ちゃんと会社として効率化を図っていただろう、
三菱東京があれだけに儲かっているようにみえたのでしょう。

さて、三菱東京のを眺めてみましたが、
今年度の資料などに着目するならば旧三菱東京とUFJ の単純な足し算との比較に
なるものの、収益レベルはさして昨年度と変わりはなく、最終決算の分水点が
特別損失の額であったことがわかります。言い換えるならば、もしかかる
議論をするのであれば、昨年度の時点で儲けすぎている、という批判をしても
問題はない訳で、最終決算が大きく黒字になったから、ではただのタカリ以外の
何者でもない、ということが言えるでしょう。というのも、過去においても同様に
営業収益を生んでいて、不良債権などの処理などの費用をそこに当て続けて
過去の収益レベルの低さを「意図的に」作っていたのですから、もし
タカリを行うのであれば、そのあたりを先に見取って主張するのが筋でしょう。
そこの儲け過ぎという議論には最終決算の赤黒という問題ではないのですから。
ただ、もしそれをやれば、この会社は確実に赤字どころか倒産の憂き目に遭い
預けていた預金が帰らぬものになる訳ですが。。。

そう考えた場合、そうやって「救われているはず」の銀行が本来は
やり玉にあがるべきなのかもしれません。

また、もし自分が三菱東京の株主であれば、自分の会社が儲けを出すことには
異論はなく、また、会社も株主のために働く、という究極の目的を果たしている
限りにおいては、(それが某氏のような会計操作による詐欺でない限りにおいては)
その役目を果たしているのだから何のとがを受ける理由もないはずなのです。


そこには、自分の手元に落ちないが故に僻んでいる、という構図しか映らないですし、
儲けすぎたら全部返さねばならなければ、資本主義の骨幹である、
「投資家の資本を極大化することで社会を発展させていく」
という目的は永遠に達せられず、そこに投資する魅力がなくなり、
誰もたかることしかしない国民しかいないこの国に投資することもなくなり、
国が衰退の一歩をたどることになる、ということになりかねないのです。
# 仮に1兆円を税引き前に収益計上するならば、そのうちの4000億円くらいは
# 税金として主張されていた国に(究極的には国民に)還元されるのですしね。

言い換えるならば、出来上がる過程にいろいろあるのかもしれないものの、
ひとたび出来上がった市場においては、その中でいかにして収益を上げるか、
もしくは費用を極小化するべきか、ということが大事であり、
他人の儲けをうらやんだり、社会構造が悪いから自分たちはその被害者だと、
泣いたり文句を言う時間などないはず、なのです。

少なくとも、ちゃんと稼いでいる人たちというのはその隙間を見つけて
収益を得ているので、それを見つけられるかどうか、というのが
「実業」の世界では大事なことの一つ、だと思うのです。。。



弱者のはかない立場を美しく描いたもの、そういうのは確かにドラマとしては
いいかもしれないし、誰もがそういうものに共感する。そして、強者を悪者にする
ことで、そういう心は確かにその方に求心するかもしれません。

でも、そんなことして、本当の社会の発展を妨げれば、最後に自分の首をしめることになる
ことにも留意しておきたいし、物事のポイントは見逃してはいけない、そう思うのは
私だけではないはず、と思いたい。。。

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