そういえば、WBS が表に出てきましたね

4/25/2009
(注) この記事は2005年11月24日の記事の再録です。

21日の新生銀行のニュースリリースに出ていたのですが、
事業の証券化プログラムを始めるとのこと。

まぁ、この話には複数のポイントがあって、ひとつは事業のキャッシュフローを担保に
資金調達を行っている、という、WBS の本質的な議論がなされている、ということで、
もうひとつが、その資金供給方法としての、「マルチセラー」「証券化プログラム」という
キーワードです。これは、前者は証券化の担保となる資産の提供者を複数化にすることで、
資産提供者による資産の属性の偏りを分散する、であり、後者は、プログラムとして
資金提供して集まった(この場合ですと)ノンリコースローンがある一定の
サイズになったら証券化を行っていくことを継続的に行っていく、という意味ですが、
これらをまとめると、新生銀行さんの今までとこれからの投資戦略が見えてくるのです。

WBS (Whole Business Securitisation) というのは、以前「企業資産の流動化と信託」の
中でも触れたように、将来その事業から発生するだろうキャッシュフローそのものを担保に
資金調達する、というもので、従来の担保資産の処分価値(例えば抵当権を
設定した不動産の価格)を元に貸す、ということと、一見一線を画したものと
捕らえることが出来るのですが、よく考えてみると、現在不動産の取引の中で
見ないことがなくなってきたとまで思われる、不動産のノンリコースローンを考えた
場合、将来の不動産のキャッシュフローだけを見て貸しているわけですから、
従来の不動産スキームも、「不動産賃貸業」のWBS と見ることも出来るわけですし、
来年以降の信託法の改正を待たずとも、(税金などの議論をさておくならば)
収益連動型の賃料を取る事でその事業のキャッシュフローをそれなりに捕捉することは
可能なので、WBS というのは不動産ノンリコースローンの拡張と見ることが出来、
そう考えるとそんなに目新しくはないのかなぁ、とも思えてくるのです。

(注)といっても、物ありきで担保価値至上主義の銀行が、まずノンリコースローンのような
目に見えない将来のキャッシュフローを担保として取ろうとする事自体時代の変化でしょうし、
これが進めば、パチンコのようなキャッシュが常に回り続ける商売に限らず、昔からよく言われた、
事業企画書一冊で
「この事業はいいアイデアだからお金を貸してみよう」
という、起業家にチャンスを与える銀行に変革していくのかもしれません。いつになるかは
わかりませんが。。。

ちなみに、今回のストラクチャーを眺める限り、信託の出番はありません。
不動産の管理だけでも入れたのかもしれませんが、
パチンコの場合特有の動産の管理・処分の問題で、問題が解決しきれなかった
のかと思われますが、そのほうがスムーズに進むように思われるのでいいのではないでしょうか。
その代わり、パチンコ店の不動産が事実上隔離されていないので、
完璧にキャッシュフローにだけ依存しているスキームになったようにも見えます。


さて、一般的にはこの手の案件というのはあらかじめ資金調達したい人と、
投資したい人の両方を準備して、それぞれのニーズのタイミングを合わせて
スキームの参加者を固定するのが常ですが、新生銀行の場合、先のリンク先の資料にも
あるように、住宅ローンの証券化の時も複数のローンオリジネーター(この場合は地銀さんですね)
から受益権を購入したのと同様、複数のセラー(担保供出者)から同種のローン出て、
それからまとめて証券化マーケットに出す、ということを行っています。

このメリットは、投資家を見つける、という出口の時間的制約が短期的になくなることから
資金調達したい人にとっては、自分の都合で出来る、というメリットを提供しながら、
その出口までの時間的リスクを新生銀行が取るためその分のプレミアムを乗せることになり
# まぁ、何でもそうなのですが、短時間で資産処分するときには買い手に有利になります。
出口までの間、その分の利益を享受しているのです。

また、複数のセラーに分散させる結果、担保資産としての特性に偏りがなくなることで
担保資産本来の特性に近づいた担保資産のプールになり、出口として販売する証券の
高格付けを取得しやすくなる、また、多く束ねることで複数のトランシェをつくりやすくなり
リスクリターンに応じた販売先を見つけやすい(ので在庫リスクを減らせる)、そして何より
リスクアセットを銀行のアセットからはずすことで BIS 対応が出来る、などのメリットを
享受できるのです。

当然ですがリスクもあって、複数のセラーをかき集められるか、という組成するまでの
期間のリスク/組成できずに保有し続けるリスク、があるわけですが、今回のように
プログラムとして取り組んでセラーを発掘することでこのようなリスクを回避しようとしているのです。


新生銀行といえば、リップルウッドに経営権が移ってから、自行の貸出債権をCLO に
して資金調達することから始まり、証券化によるフィービジネスへの傾倒と
リスクアセットのオフバランス化を常に念頭においている銀行ですので、今回のニュースリリースは
その延長として捉えるのは至極当然の感はある一方で、フィービジネスの宿命である、
新規案件の組成を常に行わなければならない、というプレッシャーも、WBS に手が届いたことで
これに極まり、という気もしてきています。

外資系証券会社で散見される証券化担当チームの日本撤退のように、常に案件を作り出すのは
この資金供給過多で、かつメガバンクの復興が本格的と目される現在のマーケットにおいては
これからも大変な環境ではあると思うのですが、つい半年前までは一緒に働いていたものとしては
これからも彼らの動きは見守っていたいところです。

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