Emerging Market と東証とマゼランファンド

4/26/2009
(注) この記事は 2006年5月21日の記事の再録です。

仕事で Fund of hedge funds という商品を扱っていると、毎月毎月
たくさんの月次レポート、要は今月勝ちました、負けました、
負けたのは僕らが悪いんじゃなくってマーケットが予想外の動きを
したからなんだよぉ。。。、という言い訳がある報告書、を手元に眺める
機会が出来るのですが、その言い訳、いや、市場の様子というのは
ひと月遅れになるもののいろいろ勉強になることが多いのです。
まぁ、市場の生の声なので当然と言えば当然なのですが。

そんな中で、最近は emerging market、新興市場、つまり BRICs を筆頭とする
G7諸国以外で今伸び盛りの、アジアだと中国とインド、ヨーロッパですと
ロシア、ブルガリアなどの東欧諸国、ラテンアメリカではブラジルあたりが
元気とされています。例えば、2005年の1年をかけて流入した投資資金の額を
2006年の最初の二ヶ月程度で同額を集めてしまって、さらにその資金流入が
止まらないそうです。

なぜかと言うと、1997年のアジアでの通貨危機、またロシアなどによるモラトリアム
に代表された、新興国の通貨価格リスクや債務不履行といった投資リスクから逃避していた
ところ、イラク問題に端を発した原油価格や金の価格など商品価格の上昇と
これら産出国の輸出増加/消費の増大による資金流入によって
新興国の国力の回復が進み、債務返済やさらには期限前償還まで行える
くらい、投資先としての魅力が出てきたこと、そして先進国市場での
投資リターンに飽き足らなくなった投資家の投資先として再注目されはじめた、
というのが大きな要因としてみられています。

しかし、特にBRICs の中でもブラジルやロシアといった、比較的通貨の兌換性の高い
国において実需や投資による資金流入の加速による株式市場の上昇と、債券市場の
上昇と金利の下落、それに伴う通貨の上昇といった現象について、
実はつい最近日本でも起きた現象との類似性を見いだすことが出来るのです。

ここで、直接日本で起きた現象を語る前に、さらに歴史をひもといて、とある
有名な投資信託をご紹介したいと思います。
マゼランファンド、というのをご存知でしょうか。
Fidelity というアメリカの投資運用会社が投資信託としてアメリカで販売している
主にアメリカ株式に投資するファンドです。このファンドが有名になったのは、
以前ここで紹介した
「アメリカ金融革命の群像」
という本の中でも取り上げられているように、80年代に10年間市場のインデックスに
勝ち続けたファンドだ、ということです。
さて、なぜ勝ち続けられたか。この本でも語られていますが、ストック・ピックが上手だった、
言い換えればちゃんとインデックス以上にあがる銘柄を選んで買ったから、というのが
まぁ妥当な回答になるかと思います。

ちなみに、特にヘッジファンドの世界で、個別株の価格変動要因を
市場全体の変動に伴う部分をベータ、
市場要因(ベータ)と関係ない個別株特有の要因をアルファ、
と呼ぶので
マゼランファンドのような米国 SEC の管理下にある投資信託は、ヘッジファンドの
カテゴリーとしてはショート(売り)ポジションをもてない株式ロング・オンリー戦略
の部類に入り、ちゃんとベータとプラスのアルファを拾った、という言い方になるのでしょう。

さて、あまりに当たり前のことを書いても面白みがないですから、
ちょっと、とある人から聞いた、マゼランファンドの真実、をご紹介しましょう。
マゼランファンドは、上記の通り常にマーケットに勝ち続けたファンドでしたから
当然誰もが買いたいファンドで、そうすると常に資金が入り続けました。
そうすると、ファンドマネジャーは資金を寝かせる訳に行かず株を買い続けなければ
なりません。最初のうちは、何を買えばいいかというアイデアに基づいて
買っていけばいいのですが、投資信託である以上、あらかじめ定められた運用方針に
基づいて、例えば大型株ならば大型株の中で有望なもの、としぼりながら買っていく
わけですから、使えるアイデアにも限りがあります。そうなると、大量の資金が
流れ込めば、アイデアに基づいて出来上がったポートフォリオにそれまでの
個別株の割合が崩れないように追加で買いましていくのです。
新しく大きく買えばその分だけ値段が上昇し、上昇すればポートフォリオの既存の
ポジションは高い値段で評価されてファンド全体の資産もそれまで以上に評価されます。
そうやってファンドが大きくなっていけばさらに新しい資金が入って、
また株を買って。。。ということで資金が流れ込めば流れ込むほど買わざるを得ず、
自然と値段が上昇していくのです。そう、実は限られたところに資金が流入すると
その限られたポートフォリオ全体で価格の上昇を引き起こし、新しい資金の流入を
呼び込むことになるのです。

この話、どこかで見ませんでしたか?
一つは冒頭のBRICs をはじめとする emerging market に投資をもとめた
海外からの資金の流入して、市場価格が上昇している、と言う話。
実際既にロシアあたりでは資金流入の結果、通貨レートが対ドルで強くなり、
輸入品が割安になることで国内市場を圧迫するためルーブル高を牽制する動きが
出ています。
もう一つは、昨年8月から今年の1月までの日本株式の上昇です。
今回の日本株式の上昇の牽引車は年金などの機関投資家でも、外国人でもなかったのです。
特にネット証券を通じての個人投資家の資金だったと言われています。
ちまたの雑誌などで株式投資があおられ、ディトレーダーの成功がクローズアップされた
ことで、(私含め)多くの個人投資家が闇雲に買いあさった結果個別株の価格は
上昇し、買えば増えるということで味を占めてさらに買いに走って個別銘柄を、
そして市場を上方に持ち上げていたのです。

日本の場合、ライブドアショック以降個人投資家のとれるリスク以上の
値動きをし始めたことで個人投資家が振り落とされている感がありますが、如何でしょう。
Emerging market の場合、先進国でのリターンとの比較の結果
新興市場への投資に妙味がないということになれば資金が引き上げられ、
資金が引き上げられるために売りが発生し、価格の下落が始まることを
思うと、株式市場のリターンや米国金利との金利差の動向が新興市場の将来を
ある意味握っているのかもしれません。

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