[企業の資産流動化と信託] 新生信託に対する行政処分に対する考察 (終わりにかえて)

4/26/2009
(注) この記事は 2006年5月2日の記事の再録です。

先週水曜の日中から、私のところに証券化をやっていた人間からの
問い合わせが多かった。
「○○さん、大丈夫かなぁ。」
○○さんとは、私の前職で一緒に働いた人のことなのですが
なぜか。先週水曜の午後、こんなニュースが出たからなのです。

新生信託銀行株式会社に対する行政処分について

過日あった、JPモルガン信託を含めたJPモルガングループに対する処分の頃から
もしや、とは思っていましたが、いざ起きると在籍していた頃の仕事を否定されている
気分になり、その後はかなり不機嫌に過ごしていました。

そもそも今回の行政処分の引き金になったのは信託業法違反、ということですが、
以前から主張している通り、現信託業法には証券化を行うにあたっては
全く整備されていないどころか改悪された法律だ、ということを
ここで再確認して、延々と続けてきた、日本における企業の資産流動化
と信託に関するシリーズのまとめにしようと思います。

今回、不動産の受託のプロセスにおいて
「当行では、不動産を原資産(信託財産)とする流動化・証券化案件の不動産管理信託業務において、引受けを行おうとする不動産の受託審査・査定等を行わず(人的構成や体制を整備せず)、対象物件の瑕疵やリスクを信託受益者等に転嫁して、受託による収益を収受する営業を推進している。」
ということから処分が降りたとされています。
しかしながら、証券化ビジネスを考えたときに、この主張がそもそも指摘として正しいのか、
まず考えてみたいと思います。

不動産の証券化を行うにあたって、一番大事なのは誰でしょう。
土地を譲渡したい人と、取得したい人です。
この両者が出会って初めて譲渡の話が進むのですが、その際に
なぜ信託を使うのでしょう。それは、不動産の流動性の低さ(所有権の登記事務など)や
(登記費用の優遇措置など)譲渡時のコストの高さをさけたいからに他ならないのです。
そう考えたときに、受託者というのはまず自ら進んで受託行為をするか、といえば
そうではなく、買い主と売り主の都合で受託の依頼がくることになります。

もしそうではないならば、普通の信託銀行のように自己ポジションとして所有する
不動産の売却するのに信託受益権化して売る、ということですけれども、
それは既得権を主張し続けている専業信託のみ可能なことで、銀行子会社信託として
出発している新生信託では、銀行子会社信託に対する不動産業務の制限により
不動産の仲介業が出来ず、また、それによって不動産管理処分信託が出来ないでいる、
ということがあげられます。

ちなみに、処分の一環として新規受託が停止させられるそうですが、
その対象が「不動産管理処分信託」と明示されているのですが、これは新生信託では
そもそも出来ないことですから、字面を読むにあたっては実質的な営業停止では
ない、という揚げ足取りのような指摘も出来ますが、これは話の本質とは違うので。。。

上記の事情をふまえると、受託の依頼を受ける時点では、買い主も売り主も
受託者以上に対象となる不動産の内容については熟知しているわけですので
受託時にかせられている受託時の説明は事実上不要ですらあるのです。
しかしながら、改正信託業法において信託契約や受託財産に関する説明をする
相手として「委託者」、要は売主に行うことが求められているのです。
その委託者は、信託契約を締結した瞬間に受益権を買主に譲渡するのに!!!

そのように考えた場合

1) 改正信託業法の求める説明義務というのは案件からすぐに離脱する
売主に行うことが求められているのであって、受託者としての物件等に対する
開示義務は買主やその後ろの投資家に対してではない。無論、最終
投資家への説明義務を負うのは、その購入する商品を販売する証券会社や
商品を仕組んだアレンジャーが目論見書などで行うはず。
2) 宅建法などをかんがみた場合に、受益権を含む不動産の売買に関する開示義務は
譲渡人の宅建業者が事実上負っている。
3) 投資家はリスクとリターンが一体となった商品に投資するのであるのだから
リスクを負わされる可能性がないような金融商品はそもそも世の中にはないし
安いフィーで受託させられる受託者がそんなリスクを負わされる経済合理性は
ない。

ということをあわせて考えれば、「当行による当該受益権の他者への譲渡の
承諾が行われたものの一部には、一般投資家にリスクを負わせる可能性を
認識しながら、不動産投資信託(REIT)への譲渡の承諾を与えている事例も、
複数確認されている。」というくだりは、改正業法をきちんと満たしたとしても
引っかかってしまうことであり、また、ここで書かれていることも、REITに譲渡する
ことは個人投資家にリスクとリターンを提供するのは当然のことであって、よくよく読めば
きわめて普通なことにもかかわらず、あたかも不当にリスクを負わせているかの
ような表現になっていることがわかります。


また、「適法状態への是正が困難な違法建築、並びに、収益が過大に設定され、
必要経費や減価要因が適切に織り込まれずに、信託委託者等が提示した信託
元本及び信託受益権価額と当行が改めて実施した物件評価額とが乖離する
事例などが検出され、当該信託受益権の他者への譲渡の承諾、並びに、
利益相反の営業が認められている。」という点ですが、では、巷で投資物件と
いう形で個人に売られているワンルームマンションのようなものはどうでしょう。
一部屋という分散の聞かない状況であたかも常に毎月収益が入ってかつ
管理費用などが控除されない利回りで見せているケースが散見される
状況で、そういった業者が摘発されているでしょうか。ちょうどこの週末に
不動産業者からそういった物件について売り込みがありましたが
平気で
「ここはいい物件ですから確実に値上がりします。」
といいながらリスクについては開示がありませんでしたが、それは
いかがなものでしょう。また、物件の評価額と売買との間の乖離についても、
将来の見込みについては投資家の各人のその後の物件の使い方などによって異なる以上、
「それは安い買い物だ」といって物が売買されるわけですから乖離が発生するのは当然のことです。
そして、個別性のきわめて高い不動産物件というものは、その流動性を
高めるための手法として信託受益権化であるものの、逆説的にいえば
適法状態への是正が困難な違法建築については、行政としては信託受益権化
されないで手間をかけて手続きを踏みさえすれば譲渡可能ということで
個人投資家に譲渡してもいい、ということなのでしょうか?


改正信託業法において、一番肝になった条文は受託者の第三者への業務委託の条項です。
今回はあまりハイライトされていない部分ではありますが、この条項の信託業者への要求は
結構厳しく、本来業務的に出来ないことを委任するという趣旨である第三者への事務委任
に関して、自分が事務遂行できるという前提で委任する、ということが求められています。
これは、例えば、不動産物件を 100棟受託したら、各棟に一人信託会社の社員をおくことを
求めているのと同義なのです。そんなことは不動産に特化した社員をたくさん遊ばせている
専業信託以外では事実上不可能でしょう。


さて、JPモルガン信託と新生信託に話を戻しましょう。
二つとも、受託者としてのコンセプトはいわゆる passive trustee という、
名義を貸しますが、実際の運営は投資家などの当事者が積極的に関与できるように
出来ることのすべてはアウトソースすることで、投資家の利にかなうようにする、
というものです。これは、香港などの海外の fiduciary business を展開する
会社においては普通にやっていることで、別名 non-discretionary trustee という、
受託者に判断する余地のない信託なのです。
それに対して改正信託業法が信託会社に求めることは、受託財産に対しては
自分で責任を持ってなんでもしなさい、ということです。それは、日本の信託銀行が
常に心がける「受託者責任」の名の下に受託財産の管理のすべてを自らの責任のもと
自らの手で行うというもので、その発想の基本には年金運用のような受託者が何でも
判断する discretionary trustee があります。

証券化において、投資家がまず念頭におくものは何でしょう。
キャッシュフローの安定化ですが、その前提には受託財産がそこにあって
知らない間に処分されないことです。non-discretionary trustee であっても、
諸般の状況下におかれた場合に受託財産を売却せざるを得ない局面が存在して
そのための売却が許されるようにしますが、基本的には自らの判断では
売却することはありません。
# まぁ、不動産管理信託ならば、そもそも売却処分できませんから。。。
しかし、discretionary trustee に預けた場合、投資家の判断の外で受託財産が売却される
可能性が残ってしまいます。それ以外にも受託者の投資家の及びもつかないところで
受託財産に手が及ぶことで当初予定していたキャッシュフローに害する可能性があることを
考えるならば、証券化の器としては、自らが判断しない non-discretionary trustee のほうが
好ましいということが明確なのです。

しかしながら、昨年の信託業法の改正は事実上信託会社に discretion = 判断を常に求め
責任を取ることを求める形になってしまったのです。言い換えるならば、いくら投資家が
判断しないでいい、責任を取らなくともいい、と契約書上書いて免責したとしても
そのような契約を結ぶことが業法違反とされて行政処分を受ける対象になってしまうのです。
これで、安心して証券化が出来るのでしょうか。却って SPC に所有させる方が
不要な資産売却のリスクを回避できるということになりかねないのではないでしょうか。

そして、今回の行政処分が法律の運用の観点で行政が何を求めているかをはっきり
させたと言える訳ですから、証券化の行く末に不安を感じずにはいられません。

確かに、失われた 15年が過ぎ、銀行本体の収益力も回復し、オンバランスを使った
ビジネスを復活させることが出来、その結果、証券化に頼らずに企業のリスクを直接
取りながら貸し付けを行うことが出来るようになりました。しかし、また信用不安などが
起きたり、企業側の資金調達のニーズの多様化に合わせる形で証券化のしやすい環境が
求められることがある将来、この法制度の中で証券化が選択肢として取りづらいことが
この国の発展にどう影響するのか、見守ってみたいものです。

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