近年の企業買収から見る金融とそもそもの基礎知識 (5: ファンドって、なに?)

4/26/2009
(注) この記事は 2006年6月21日の記事の再録です。

今週の頭に、いわゆる「村上ファンド」を率いていた村上氏が
インサイダー取引容疑で証券取引法違反の疑いで逮捕されました。

これを契機にいわゆる「ファンド」と言うものに対する規制などの
話が急ピッチで展開している様子もうかがえるのですが、そもそも
ファンドってなんなのでしょうか。。。

ファンド  (fund) を辞書で引くと「基金」という言葉が最初に出てくるでしょう。
この「基金」という言葉を聞くと、

ある「崇高な」目的のためにとある人がお金を出して

「、そこから恵まれない人に資金を提供している」、

という何となくノーベル賞というか、学生奨学金制度というか
そういうものを思い浮かべてしまいがちです。
でも、そういった「崇高な目的を掲げる」基金ですら、元本を取り崩して
支払うとあっという間に基金が(それこそ生命保険の保護基金(?)のように)
あっという間に枯渇してしまいます。

となると、元本をいかに運用していくかが問題になってくるのです。
まぁ、ノーベル賞や奨学金の基金あたりであれば、維持コストをペイできる
程度、という安定した運用を目指せばいいはずなのですが。。。


さて、さして「崇高な目的」を掲げない、きわめて普通な私たちの世界に戻りましょう。
それであっても、お金が減るよりは増えてほしいのは一緒です。
でも、増え方(リターン)と、増え方に対する上下のぶれ方(リスク)にしては
人それぞれ好みがあります。例えば、負けるのが嫌い!と言う人と、負ける可能性が
あってもいいから勝つときは大きく勝ちたい!と言う人では全く正反対ですよね。
あと、投資している先から定期的にキャッシュフローが出てきてほしいとか、
途中はキャッシュフローはいらないからまとめて全部返してほしいとか、
そうなると、人それぞれ投資するものが違ってくるのは当然のことでしょう。

しかし、人それぞれが個別に投資する、というのもいいのですが、
投資先を探したり、調べたり、売り買いを自分で行うと、時間も手間もかかるので
本来の仕事が出来なくなるという本末転倒なことになりかねないのです。
また、個々の投資できる金額は言うほどは大きくはないので、投資効率の
あまりよくない小口での取引になってしまうというデメリットもあります。
そうなると、同じような投資目的を持った人たちの資金を束ねて、
その投資目的にそった形で誰かに運用を任せてしまって、投資している人たちは
投資結果のリスクとリターンの責任を負う、という分業にした方が
効率がいい、ということになりそうですね。

こうやって、「同じような投資目的を持った人たちの資金を束ねて、
その投資目的にそった形で運用する」仕組みが、今時呼ばれている
「ファンド」の広い意味なのです。

私たちに身近な「投資信託(ミューチュアルファンド)」も、
冒頭に出た、機関投資家から資金を集めて運用している「村上ファンド」も
投資したい誰かの代わりになって資金の運用を行っている、その意味では全く同じなのです。

では、それとあれとではどう違うのでしょうか。

まず、入り口の違いがあります。

日本の法律によると、50名未満の投資家に限定して提供されるファンドを「私募ファンド」、
50名以上の不特定多数に提供されるファンドを「公募ファンド」とそれぞれ呼びます。
# 実際には、適格機関投資家向けの「プロ私募」と、それ以外の少数向けの
# 「少人数私募」などに分けられるのですが、まぁ、ざっくりと分けてみました。

後者の「公募ファンド」ですが、不特定多数に提供されるということは、
その商品の内容の説明がきちんとなされる必要があることをふまえると、
オプションやスワップなどの金融派生商品を複雑に思いっきり使われるたぐいの商品や
資金を借り入れてリスクリターンにレバレッジを効かせてハイリスクハイリターンにしたり、
というようなことがされると、後々運用がうまくいかなくなったときに揉める原因に
(必ずと言っていいほど)なるので、あまりそうならないように、これらの借り入れや
金融派生商品の使用に制限がかけられ、かつファンドの投資内容がガラス張りになるように
定期的な開示が要求されています。
また、運用する人にも(報酬など)いろいろと制限がかかります。

しかし、投資内容の開示をしてしまうとその分手間やコストがかかるし、
運用者によっては開示した運用内容が同業他社にばれるのがいやなのでしたくない、
といった事情、また、投資家は大きく稼ぎたいというときに、レバレッジが効かせら
れないのでは困るので、そういうときには、少人数にしぼってちゃんと投資家に
リスクリターンを説明できる体制で募集する「私募」のスタイルを取る必要があるのです。

無論、投資家の数が少なければ投資家一人当たりの投資額は多額を求められるのは
当然です。一般に、ファンドを立ち上げてペイする金額は、スタイルによるものの
15億円から50億円、と言われています。そうなると、100万円で私募に混ぜてもらう
というのは厳しいのがよくわかると思います。そう、私募は「大きく張れてリスクの
とれる」人に限定せざるを得ないのです。これがいわゆる

「金は天下で回りっぱなし」
「お金はたくさんあるところに集まる」
というゆえんなのかも知れません。

それはさておき、話を本題に戻しましょう。
あのファンドとそのファンドの違いのもう一つは、運用方針、です。
言い換えると、何にどうやって投資するか、という点です。
MMF/MRF のような、リスクフリーで流動性の高い短期国債などに投資して銀行の
普通預金並みのリターンを出すものから、投資信託の商品一覧に並ぶような
株や債券への(現物保有の形での)投資、ヘッジファンドに見られるような
株や債券の空売りなど信用取り引きでの投資、先物取り引きの組み合わせ、
はたまた、REIT のような不動産への投資や、最近ではだいぶ収まった
禿鷹ファンドと呼ばれる、割安の不良債権や不良物件への投資、プライベート
エクイティと呼ばれる、未公開の新興企業への投資、などなど、安く買って高く売れる
ものであれば何でも投資対象になるのです。

当然、投資対象によって、投資期間もその投資資金の回収への流動性も
違ってきます。まぁ、一般的に、上記の列挙した順序で、解約したいという
意思表示をしてもらってから投資している対象を売却するなどの現金化が
できるまでに時間がかかる傾向にありますし、運用する側も一旦資金を入れてもらったら、
長期間運用に資金を預けてほしい性質の投資でもあります。
それゆえ、MMF/MRF や投資信託以外は、しっかりとリスクをわかった上で投資
してほしい私募にならざるを得ない傾向にあります。


しかししかし、いつの頃から、世の中の投資対象は多様化したのでしょうか。
不動産も商品先物も、未公開の新興企業も、それ自身は古くからある投資対象でした。
しかも、個々の市場へ参入する投資家はそれぞれ限られた範囲で、その深い知識を
屈指することで投資機会を見つけ収益を得ていたわけです。ヘッジファンドもしかり。


なぜ、今ファンドがもてはやされているのでしょう。
一つは全世界的に見ても資金の運用難が起きている現状で、
投資家は投資リスクとリターンを求めて旧来からあった株や債券といった
投資の世界から、これらと相関関係の低いオルタナティブな投資対象に移行し始め、
また、運用者も従来の自己資本に飽き足らず、投資効率を求めて更なる資金を求め、
それぞれがそれぞれの役割を果たす分業が進んできていることにあるのかも
しれません。実際に、オルタナティブな投資の代名詞になりつつある
ヘッジファンドは、90年代のコンピューターやインターネットの爆発的な普及に
よって、従来であれば金融機関のトレーディングルームが高額の投資をして得られた
(証券の売買コストや情報という意味でも)環境が自宅で手軽にもてるようになったことで、
トレーディングルームで腕に覚えのある人間が更なる報酬を求めて独立してファンドマネジャーとなる
ということが従来よりも簡単にできるようになったことが一因とされています。
# これは個人から出てきたディトレーダーにも通じるものがありますが。。。

この傾向はアメリカや、ヨーロッパ(ロンドンだけではなく、パリや東欧などにも)だけに
とどまらず、アジアでも盛んになり、世の中のヘッジファンドだけでも8000とも10000とも
言われています。

そうなると、運用難に喘ぐ機関投資家は、それぞれの抱える目標リスク・リターンに
合うファンドを選択して投資することで、自らの投資部門の強化よりも手軽に
資金運用が可能になる、というメリットが出てくるのです。

かくて、特色のあるファンドは資金を機関投資家から集めて、その資金力を元に
それぞれのスタイルの投資を行い、リターンを求め始めるのです。

そして、彼らの目的は、リターンをあげて、報酬を得ることにあります。
特に私募であれば、報酬体系も自由に設定できるので、あげたリターンの 20% を
成功報酬としてもらう、ということも出来ますし、ある意味これがヘッジファンド
の成功の原動力なのです。これによって飽くなきリターンへの執着が始まり、
投資家が成功するファンドに更なる資金を提供し、ファンドという化け物が
世の中を動かそうとするのです。

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