金融ってなあに? - 近年の企業買収から見る金融とそもそもの基礎知識 (3: 証券会社って、なに?)

4/25/2009
(注) この記事は2006年1月20日の記事の再録です。

このところ、またライブドアを中心として金融市場が騒がしくなっているようで、
そろそろこの話をちゃんと進めないと行けないような気がしてきた。

このシリーズのタイトルにもなっている、企業買収、というキーワードで
常に鍵を握るとされているのが、「投資銀行」と呼ばれる金融業界のプレイヤーであり、
「ゴールドマンサックス」や「リーマンブラザーズ」といった外資系の証券会社が
その急先鋒としてあげられるのが常ではあります。

しかし、「投資銀行」と「証券会社」、この二つを結ぶものが一体何か、
このあたりから、証券会社をみていきたいと思います。


この10年で、金融改革の波に最もさらされ、競争が激化した業種は
金融の中では証券会社に他ならないでしょう。
手数料の自由化、認可制から登録制への変化、証券商品の銀行での解禁、などなど、
そして、IT時代の潮流の波も合わさって、10年前から比べて様変わりしている部分が
一番大きいのではないでしょうか。


そもそも、証券会社とは何か、と言うとき、一番最初にイメージされる言葉は、
この時代の流れにも関わらずきっとこれでしょう。

「株屋」

この、ちょっといかがわしい響き、これは一時払拭しようとした企業もありましたが、
結果から見れば彼らはここから逃げる事は出来ないでしょう。

というのも、証券会社の最初の顔、というのが、有価証券の売買の媒介に他ならず、
一番人を引きつけて止まないのが、株式の売買だからです。ギャンブルにも似た香りのする、
この株の取引は、10年以上前であれば、やる人はどっぷりやるけれども、やらない人は
ギャンブルの一つとして毛嫌いするくらいの、それは普通の人があまりやらないもの、
でした。そうなると、ある程度手数料も固定されて競争のない世界、しかも
お客さんが数少ないとあれば、証券会社が出来る事と言ったら
「これ儲かりますから買いませんか?」
といって、一度買わせた株を売らせて買わせて、と売り買いの手数料を払ってもらう
という事に徹するしかもうける事が出来ないのです。バブル華やかな頃は、無理無理
しなくとも、自然と株は上がり、あがればお客さんは売り買いをバンバンして、
みんなハッピー、という時代ではあったのでしょう。しかし、土地売買の事実上の
凍結化をきっかけとした、株のバブルの終焉とともに、株の取引は、以前のような
コアでマニアな人たちだけに戻ってしまったのです。そうすると、痛い目にあった人も含め
あんなものには手を出さない、と言うことになるのです。

でも、ある意味外圧に屈したからか、金融の世界に自由化の波が押し寄せてきたのです。
「Free, Fair, Global」
と、全部 F にすればいいのに。。。とささやかれた1997年の金融の自由化のロードマップの
真っ先に矢面に立たされたのは、他でもなく、証券会社でした。
いわく、商品の多様化、いわく、直接金融のチャネルを広げることでの資金調達の手法の
多様化、でも、背後に隠されていたのは、1400兆円の個人資産の流動化のチャネルを
広げるために証券会社の浄化を進めたかった、というところでしょうか。

投資信託が銀行の窓口で売られ始めました。
今まで銀行で元本の割れる商品をみたことのなかった個人に
リスク以上にリターンの味を覚えてもらいました。
気づいたら、インターネットの普及が進み、個人が銀行や証券会社の端末を
銀行員や証券会社員の代わりにたたき始めるようになりました。
そうすれば、コストが下がる分だけ、バブルの後遺症を癒すだけの
収益が手元に残る、はずでした。

でも、それ以上に証券会社のライセンスを許可制から登録制に変えたことで
オンライン証券会社という、ディスカウントブローカーが出てきたのです。
インターネットを通じて会社の端末をたたいてもらうことで
今までの株式取引の手数料よりもぜんぜん安い手数料で取引をしてもらう、
というものです。今までみたいに、歩合の外務員が回転売買を求めてぎりぎりの
情報を耳打ちすることなく、お客さんに自分で判断して売り買いしてもらうのです。

最初は、思ったほど口座は開かれませんでした。
でも5年も経ち、インターネットは普及し、ITバブルでおいしい目にあった人たちの
武勇伝は伝わり、だんだん不況といいながらも稼ぎたいという、色気のある人たちが
増えてきて、そして。。。今では市場を動かすのは個人の移ろいぎみな売買だと
言われるくらい、小学生がライブドアの株を買うような、株に対して敷居の低くなった時代なのです。


さて、これでは、単にディスカウントブローカーの話で終わってしまいます。
証券会社は、取引所で売り買いされている株や債券の売り買いをしているだけでは
その手数料だけで終わってしまいます。次に移るのは、取引を増やすために、取引銘柄を
増やすのです。そう、IPO (新規株式公開)の手助けをするのです。


このIPOというのは、ある意味媚薬みたいなところがあるのです。

IPO したい人にとっては、株を公開して売ることで資金を調達するだけでなく、
手持ちの株に流動性をつけて、それこそ会社を設立したときの1,000万円を
10億や100億に化けさせるのです。だから、ベンチャー企業は土日も休まずに
この日を夢見て働きつづけるのです。

未公開株に手を出したい人、というのも、このIPOで化けるのを期待するので
人より早く手に入れたいのです。まぁ、秘密クラブの仲間入りした気分も
あるのかもしれませんが、多くの(合法的なものも含めて)詐欺師もいますからねぇ…

IPO の株を買いたい人も、この公開した直後に爆発的に価格が上昇することを
期待して、最後のチャンスにもぐりこみたい、のです。

そして、そんな人たちの夢を背負い込んでいくのが、証券会社なのです。
IPOしたい人には手数料をもらって上場の手助けをして、IPOされる株を
買いたい人には、自分のところで上場させる株を割り当てることで次にも
おいしい目にあってもらえるように取引をたくさんしてもらい、そして銘柄が
増えればその分だけ、毎日の取引高も増えて、取引手数料も期待できる…

でも、上場できる出来ないにかかわらず、企業の資金調達のニーズは
当然あって、IPO の手伝いをする、しないに関係なく、直接金融、要は
社債を発行しませんか?とか、資産担保にした資金調達(そう、証券化です)を
しませんか、なんて話も出来るようになってくるのです。
当然、そうやって組成した債券も、彼らが独占的に売ればその分
組成のための手数料であり、販売のための手数料でありを頂戴できるようになるのです。

さてさて、そうやって、会社さんの内部を見る力が備わってくると、取引先の
会社さんから
「あそこの会社、買いたいんだけど…」
とか
「そろそろ売って引退しようか。。。」
なんて話も出てくるでしょう。これは、債権者になる銀行が主導で話をすることも
あるでしょうけど、中立的な立場になりやすい証券会社にも期待されるのです。
そうなってくると、M&A に証券会社が買う側や売る側の代理人に立つのも
すごく自然に見えてくるのです。。。

さてさて、気づくと、証券会社の仕事の幅が広がってきたように見えますよね。
これに加えて、投資の対象を更に広げるべく、不動産投資の匿名組合を組成して
みたり、投資ファンドを組成して持分を売ったり、自分自身で一旦ノンりコースローンを
ファイナンスしてこれを証券化して CMBS で投資家さんに売ってみたり…

そう、売れるものは売るんです。
そして、自己勘定での投資を除けば、あとはすべて手数料収入になるものは何でも、
右から左へ、というものに、業界全体が進んできていたのです。

とはいえ、何でもそろえるのは大手と呼ばれる数社だけ。
あとは、株の売買に特化するのか、不動産に特化するのか、はたまた。。。
細分化も更に進んだのです。なので、ディスカウントブローカーも証券会社、
M&A みたいな投資銀行業も証券会社、不動産投資も。。。という現在の
事態になってしまったのです。まぁ、それが、自由化の与えてくれた競争環境
だったのかもしれません。

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